intermezzo

死んでも忘れられない観劇をして生きたい

2017年舞台ベスト

1. 雪組琥珀色の雨にぬれて/ “D”ramatic S!」

2. 花組『金色の砂漠』

3. 東宝レ・ミゼラブル

4. 宙組『神々の土地』

5. 花組邪馬台国の風』新人公演

 

5.花組東京 古代ロマン『邪馬台国の風』新人公演 作・演出:中村暁 新公演出:町田菜花

正直に言うと、本公演で見た『邪馬台国の風』は脚本や演出の粗に目が行って全く集中できなかった。新公大丈夫かな…と思ってたら(見る方の私が堪えられるかという意味で)、予想を良い意味で大きく裏切られた。

新公はそれぞれがはまり役と言えるくらいぴったりの配役。人物たちが感情を交わし、信念を貫いて青春を生きる物語として素直に入り込むことができた。

言ってしまえば本公演レベルの出来ではない脚本・演出だから、新公が本公演以上にちょうどよく見えたという側面はあると思う。ベテランの先生に対してこんなこと言いたくないけど、良くも悪くも新公レベルというか……脚本・演出・役者のバランスというか、過不足ないことって大事だなと痛感。

役の性質を的確に捉えて真っ直ぐに表現してみせた新公メンバーのパフォーマンスはお芝居・歌ともに素晴らしくて、本当に良い公演を見たなぁという気持ちにさせてもらった。

とくに、信念を瞳に宿しマナを包み込む器の大きさをもつタケヒコを演じた飛龍つかささん、繊細さな気持ちの揺らぎと芯の強さを表現したマナの華優希さんの主演コンビは、これから見せてくれる舞台が楽しみな存在になった。

 

4.宙組東京 ミュージカル・プレイ『神々の土地』 作・演出:上田久美子

『金色の砂漠』とは対照的に、開かれた物語。開かれた物語というのは、「神々の土地」には過去にも未来にも地続きな時間があり、解釈も観る者に委ねられていると感じたから。歴史物語として、とても満足度が高かったです。

一人ひとりの個人が信念をもち、ときにはそれを貫くことが難しくても、自分の意志で行動する。主人公のドミトリーのみならず、多くの登場人物たちのそんな姿が重なり合い、奥行きのある物語になっていて、まさに歴史であり、ものすごく完成度の高い作品。

トップ娘役不在だからか、ドミトリーという中心はありつつも極端にどこかの関係性に偏ることのない描写が成り立って、こんな風になったのかな。もしトップ娘役がいたらラブロマンスを濃くせざるを得ないと思うので。

ドミトリーはロシアの地を去り、イリナは死に、オリガは母とともに滅びるものの、フェリックスは呑気にアメリカで生きている。フェリックスの呑気さは意図的なものだと思うし、物語をことさらに悲劇と断じないところが好き。

とくにオリガは、ドミトリーはじめとする他者との交わりで視野が広がり、知性を開花させ、自ら考えて行動をするようになる。母に愛されているからではなく、母を愛しているから、という主体性。たとえ先に待つのが滅びゆく未来でも、オリガが自分の人生を自分で生きようとする意志に胸を打たれた。

オリガを演じた星風まどかさんは、個人的に大好きな娘役さん。役を生き抜く大きな生命力、意志を強く感じさせる瞳、舞台に全身全霊をかけられるひたむきさ。オリガというのは、まどかちゃんの美点を活かし、更に引き上げるような役だったと思う。

脚本も洗練された演出も素晴らしい作品だけど、一つ言いたいのは、上田久美子先生には歌をもっと大切にしてほしいということです。「今この人物が銀橋で歌ったのは、宝塚のお芝居で歌わせなきゃいけないからで、それ以上でもそれ以下でもないな」と思ってしまう瞬間があって、とてももったいなかった。せっかく歌わせるなら、もっと大きな意味を持たせられるはずだと信じます。

 

3.東宝レ・ミゼラブル

【ベストキャスト】バルジャン:ヤン ジャベール:吉原 コゼット:清水 マリウス:海宝

これだけ脚本も演出も出来上がっている作品であっても、演じる役者の解釈が自分にとっていかに大事なのか実感。

とくにバルジャンとジャベールは初見ではとうてい理解できず、さらっと観終えたことがショックで他のキャストのチケットを手配した。

2回目の吉原光夫さんのバルジャンの演技で、バルジャンという人は逮捕される以前より生粋の善人だったというわけではなく、神父様に救われたことによって「善き人であろう」と努め続けたのだ、と思った。吉原バルジャンの苦しみや葛藤は自分にすごく近く感じられた。

3回目のヤン・ジュンモさんのバルジャンは、吉原バルジャンとは逆に、とても柔らかい自分の本来の性質を守り抜いたのだ、と思うような演技だった。とくに清水コゼットとの相性が素晴らしく、誰の心も溶かしてしまうようなぬくもりを感じさせた。

ジャベールは吉原さんの憎いほど格好いい居方から、彼の譲れない矜持や誇り高さを感じて、すとんと腑に落ちた。

ヤンさん、吉原さん共にそれぞれの良さがあるバルジャンだったものの、ジャベールで吉原さんを選びたいし、清水コゼットとの演技が他を圧倒していたので、ヤンバルジャンをベストに。

海宝マリウスの少し浮世離れした姿はコゼットにもエポニーヌにも魅力的なはずだと自然と思えた。

フォンテーヌ、エポニーヌ、アンジョルラスは三人とも観たけど、決定的な好みはないのでベストは選びませんでした。

 

2.花組東京 トラジェディ・アラベスク『金色の砂漠』 作・演出:上田久美子

この公演は1回見たきりで後から何度も思い出したりしなかったけど、今年観劇したものを振り返ると、観劇したそのときの感情の大きさが蘇ってきた。

なぜかというと、自分の見たいものがそこにあったからじゃないかなと思う。なおかつ、この作品は極端に閉じた物語で、観たときに完結していたので、それ以上思い出す必要もなかったんですよね。物語に救いを見出すことすらフィナーレで済んでいる。

自分が見たいものは何なのかと言うと、強さや正しさや優しさだけではなく、弱さや正しくないことや痛みと向き合う姿。迷いすれ違いながら、求めるものや信じるものがある人たちの気持ちや行動であり、そこに確かに美しさがあるのだということ。

そういったものは時に生々しくなりすぎるんだろうけど、宝塚で見ると美しさがある意味では赦しになる気がする。全肯定ではなく、存在することを認めてくれるような。

ギイの未熟さとタルハーミネの誇り高さは、互いに分かり合えるものではなく、エゴイスティックな激情となって心を揺さぶった。一方で、ジャーとビルマーヤの祈るような愛や、ジャハンギールとアムダリヤの結びつきの強さや情の深さも、密度の濃い物語を描き出していたと思う。

この公演で退団された花乃まりあさんの硬質な美しさも印象的だった。私は「女は笑顔が一番」だなんて全く思っていない。タルハーミネの頑なさや苦悩は花乃さんの美しさを引き出し、彩っていて、こんな鮮烈な姿を最後に見ることができて良かったと思っています。

 

1.雪組全国ツアー「琥珀色の雨にぬれて/ “D”ramatic S!」

お芝居・ショーあわせて、雪組新トップコンビ望海風斗さん・真彩希帆さんのお披露目公演として素晴らしかった。

 

ミュージカル・ロマン『琥珀色の雨に雨にぬれて』作:柴田侑宏 演出:正塚晴彦

終わった恋の物語。大戦を生き残り、悠々と静養し、友人の妹である婚約者をもつ貴族の男が、成り上がりのモデル女にのぼせ上がったものの、結局は一時の交わりに過ぎなかった。傍から見ればそんな出来事。

けれど、この作品はそこにある恋の喜び、心もとなさ、ともに過ごす時間の静謐さ、自己が変わるような感覚、それらを美しく立ち現れさせる。

自分に折り合いをつけるような「セ・ラ・ヴィ」。喪失感や痛みを覆う、クロード、シャロン、ルイ、フランソワーズ、それぞれの諦念。

誰かを思うときだからこそ見える幻想のような景色や、雨にぬれることすら心地よい繊細な感覚。クロードの歌う「琥珀色の雨にぬれて」の質感。

クロードとシャロンの交わす感情や心の揺らめきは、この二人だけのものであると同時に、この作品だけのものです。再演を重ねるに足る作品の力だけでなく、そんな風に思えるものを見せてくれた望海さん・真彩さんのお二人が素晴らしかった。

私はこれまで「男役」というものに実はあまり関心がなかったのですが、だいもんのクロードを見て、あまりにも自然に素敵で、知らずに惹かれるくらい魅力的で、本当に驚いたし、これが男役を極めるということなんだなと思った。

真彩ちゃんのシャロン。誰よりも美しい立ち居振る舞い。分別を知りながらも、豊かな感情をもっている。私は真彩シャロンに恋してしまいました。タカスペで真彩ちゃんがワンフレーズ歌った「セ・ラ・ヴィ」に心が震えるくらい。

おそらくシャロンという役は真彩ちゃんにとってとても難しいものだっただろうけど、想像もしていないくらい格別なものを作り上げたことに脱帽です。

 

Show Spirit『“D”ramatic S!』作・演出:中村一

早霧せいなさん・咲妃みゆさんの退団公演のショーを再構成したもの。受け継いだバトンのもつ力を最大限に活かしつつ、今の自分たちの色で輝いてみせた、新生雪組の最高のショー。

中村一徳先生は、生徒に対する愛があたたかくて、本当に素敵な先生だなと思う。齋藤先生ほどの愛の重さとかアクの強さはないんだけど笑、退団公演がプレお披露目公演になるにはちょうどよい濃さだった気がする。

全国ツアーのパンフレットに寄せられた中村一徳先生のメッセージのあたたかさに私は泣きました。宝塚って本当に良いところですね。

なかでも好きな場面は、「Snow troupe・絆」にかわって新しく加わった「Snow troupe・希望」。絆の場面をリスペクトしながら、その先の道を歩んで、仲間とともに新たに未来を描こうとする展開。

「君の手を決して離しはしない永遠に 高く飛び立とう 君に瞳に希望が見える」の箇所がとても好き。

中村先生の歌詞はもちろん、青木朝子先生の曲もキャッチーだけど少し切なくて名曲です。

 

好きな5作を挙げましたが、次点は花組はいからさんが通る』。柚香少尉がずるかった!

今年見逃して後悔しているのは月組『グランド・ホテル』、ミュージカル『パレード』。

来年楽しみな舞台は『FUN HOME』『ジャージー・ボーイズ』『スリル・ミー』。実は宝塚ですごく楽しみな演目がまだないので、はやく新しい発表がないかなーと思っています。

2018年も楽しい観劇をたくさんできますように!