intermezzo

死んでも忘れられない観劇をして生きたい

花組『邪馬台国の風』新人公演(東京宝塚劇場・8/17)〜邪馬台の兵士たちと、花組下級生たちの青春の日々

 これまで雪組宙組の新人公演を観てきて、花組は初めて。素晴らしい公演だった!数日経っても、良いもの見させてもらったなって余韻に浸ってます。記憶が薄れていくのがほんとに惜しいので書き残しておく。

 

 新公の二日前に本公演を観て、こりゃあんまり良い作品じゃないな……と思ったし、ブログには演出がヤバい!!古い!!って書いたけど、それだけじゃなくて脚本も弱いんじゃないか。つまり、作品のテーマを伝える力だったり、登場人物たちの行動の背景や心情の説得力が弱い。

 作品を脚本・演出・演者の三位一体って考えると、邪馬台国はどうしても前二つが演者の力量より弱くて、主演のみりお(明日海りおさん)がいくら抜群に美しくて歌が上手かろうが、観た後に「おいおいこれで終わりかよ……そうですか……」ってなるわけじゃないですか。私はなった、幕が降りるときにぽかーんって口が開いてた。

 けれど新公は、自分でも驚くけど、感動した。別れを告げたヒミコに見守られながら旅立つタケヒコの姿に鳥肌が立ったし、『邪馬台国の風』の物語に納得して清々しい気持ちになった。客電がついた瞬間、「いやーすっごい良かった!皆はまり役じゃない?!」って連れに話しかけたくらい。

 

 新公って、ふだん見られない下級生の魅力だったり頑張りを見る場だと思うけど、今回はそれ以上に作品として伝わってくるものがあったように思う。それは『邪馬台国の風』の脚本と新公メンバーという演者が、すごく相性が良くて、なおかつ客席に伝わるだけのパフォーマンスを新公メンバーが見せてくれたからじゃないかな。

 同じ脚本なのに、演者の持ち味が役にとても合っているせいなのか脚本の弱さを補い、物語がくっきりと浮かび上がる。いつもなら新公を見た後って、本役さんと比べてここが足りないよね、とかあそこはすっごく良かった!って見方になりがちなんだけど、『邪馬台国の風』では、また違う一つの作品を見たような気持ちになりました。

 

 全体的にとてもレベルの高い新公だったけど、何より、飛龍つかささん・華優希さんの主演コンビが素晴らしかった!二人とも初主演だけど、それを感じさせない堂々とした姿。真っ直ぐな力強さが持ち味のつかさ君と、可憐な容姿に美しい声をもつ少女の華ちゃん。二人の持ち味が合わさって、タケヒコとマナの初恋、別れの切なさが伝わってきた。

 主演の飛龍つかさ君は、幕開きのソロから素晴らしい歌を聴かせてくれて、バッチリの掴み。出来る人とは思っていたけど、まさかここまでとは。声質も豊かでとっても聴き心地が良い。最後の銀橋ソロはとくに決意のこもった力強い歌唱で、心奪われた。男役として大きな武器になる歌声なのでは。恵まれた体格と真っ直ぐな眼差しから力強さを感じさせつつ、お芝居からはタケヒコの誠実で温かな人柄が感じられました。こんなことを若手の生徒さんに対して思うのは滅多にないんだけど、つかさ君の包容力のある大きな男役像を見ると、この人が大劇場の真ん中に立つ未来があったら……と想像せずにはいられないです。

 ヒロインの華優希ちゃん。ものすごく美少女、そして美声。ヒロイン然とした美声に助けられている部分は大いにあるものの、お芝居もしっかりしていたんじゃないかな。娘役さんの場合、もうちょっと実力が伴ってからヒロインにした方が良かったんじゃ……ってケースもあるけど、研4での初ヒロイン、大成功だったと思います。この采配したの誰だか分からないけど(花組Pかな?)手腕を感じるわー。特別な力を持ちながら宿命に翻弄されるマナがはまり役に感じられたけど、『はいからさんが通る』で演じるのは真逆とも言っていい紅緒。どんな風に演じるのか、今からすごく期待が高まってます。

 主演コンビ以外の皆さんも、とっても良いお芝居をしていたと思う。亜蓮冬馬さんのアシラの頼もしさや、帆純まひろさんのフルドリの穏やかさ。舞空瞳さんのイサカのいじらしさ。紅羽真希さんのツブラメの心優しさ。それぞれの人物像が伝わってきて、役としっかり向き合ったんだなと思いました。

 タケヒコの師匠を演じた峰果とわさんも印象に残っているし、春妃うららさんのアケヒも確かな演技に素晴らしい佇まい。音くり寿さんの大巫女はぞくっとするほど神秘的な歌声。綺城ひか理さんの奴王は、悪くはないけど、新公主演も2回務めた方なので、もっと出来るんじゃないかな〜。狗奴国側の印象は個人的には薄かったかな。邪馬台側の人物たちに目が行ってしまって。クコチヒコの聖乃あすかさんは美しかったけど、どうしても、しどころのない役という風に感じられた。他にも大勢の生徒さんが出演されてますが、うーんここはちょっと、と思うようなことがほとんど無かった。花組下級生、スター候補の層の厚さに加えて、全体的にすごくレベルが高くて、本当に頼もしい。

 

 長のご挨拶は矢吹世奈さん。宿命を背負う登場人物たちと、与えられた役に向き合う自分たちを重ねて、とてもいいご挨拶でした。主演のつかさ君のご挨拶は、「幼い頃から夢見た宝塚で、こうしてお客様の前でご挨拶させていただけるのが夢のよう」「新公主演を務めさせていただいた者として恥じぬよう、これからも精進して参りたい」こんな感じの言葉だったかな。新公主演の重みを感じますね。正直、つかさ君にも主演してほしいけど果たしてチャンスが巡ってくるか……と思ってたから、こうして立派に務めた姿を見られて嬉しいし、これから先も自らの手で掴み取っていくだろうなと眩しかった。そして、これだけスター候補がいる花組だから、できるだけ多くの生徒さんに大きく花開くチャンスを与えてほしいなと思う。

 

 新公を通して一番感じたのは、『邪馬台国の風』は青春の物語なんだなと。タケヒコが邪馬台の兵士たちと共に鍛錬して過ごす姿は、今まさに同じ組で切磋琢磨する新公メンバーたちとそのまま重なる。そのなかで、マナと淡い初恋をして、彼女を守るために奮闘し、戦いで仲間を失い、最後には旅立ちの別れを告げる。遠く離れた地でも、風が吹けば思い出す青春の日々。こんな物語をくっきりと浮かび上がらせ、魅力ある舞台にした花組新公メンバー、そして演出の樫畑先生、素晴らしかったです。下級生時代を共に過ごしても、ずっと同じメンバーでいられるわけじゃなく、組替えがあったり、卒業する人もいる。けれど、この新公メンバーが作り上げる花組の未来はきっと明るいはずだし、そこまで目を離さずに追っていたくなる。そんな新人公演でした。次回は『ポーの一族』、きっと高いハードルだろうけど、どんな風にそれを乗り越えるのか?見届けたい気持ちでいっぱいです。