intermezzo

死んでも忘れられない観劇をして生きたい

ミュージカル『RENT』(シアタークリエ・7/8マチネ)〜翻訳ミュージカルの難しさと、チケットの値段に見合う舞台の条件って

シアタークリエでミュージカル『RENT』日本版を観てきた。

 

公式サイト:シアタークリエ ミュージカル『RENT』

キャスト

マーク:村井良大

ロジャー:堂珍嘉邦

ミミ:ジェニファー

エンジェル:丘山晴己

コリンズ:光永泰一朗

モーリーン:上木彩矢

ジョアンヌ:宮本美季

ベニー:NALAW

 

 RENTは2006年の映画版を何度か見ている。初めて見た当時は友人や先輩に熱狂的なRENTファンがいて、彼女たちの熱量には到底及ばないまでも、好きなミュージカルの一つ。クリスマスシーズンになると今でもよくアルバムを聴くんだけど、本当に素晴らしい曲が多いなぁとそのたびに思う。

 2008年から4回にわたり日本で上演され、2017年は2015年版からの続投キャストの多い再演らしい。今年活動を再開したCHEMISTRY堂珍嘉邦さんがロジャー役で2015年に引き続き出演されていることもあり、楽しみな気持ちで初めて観劇した。

 

 率直な感想を言うと、曲は好きなのに乗り切れなくて満足できなかったし、なんで物足りないんだろう?と考えながら見てしまった。

 この作品のメッセージや性質を考えると、観客を巻き込んで感情の渦を共有させることが肝なんじゃないかなと思うんだけど、私はそこまではいけず。なんというか、終始「この日本版ってどうなんだろう……」って思いながら見てる自分の意識が頭から離れなくて、没頭できなかった。

 

 観ているあいだも考えていたのは、こんな風に感じたのは言語の問題が一番大きいんじゃないかということ。

 私は英語の詞に詳しいわけではないけど、おそらく原詞が韻を踏んでいてとても耳触りよいのに対して、日本語はするっと頭に入ってくる訳にはなっていない。

 あと、"No Day But Today"や"Seasons of Love"とか曲の一番キャッチーなフレーズを原詞のままにして日本語に混ぜている箇所がそれなりにあるんだけど、これはあまり良くないんじゃないかな……。まあ、上に挙げたフレーズは作品の象徴であり核だから分かるとしても、他にもいくつかあって、その度に原詞の出来の良さを感じ、「なら日本語である必要ないんじゃ?」って考えが頭をよぎってしまう。

 母国語に翻訳された作品を観ることの大きな意味は、言語の障壁なく、作品の核にアプローチしやすくなることだと私は思っている。RENTに関して言えば、日本版の詞はむしろ頭を混乱させるから、この意味を充分になしていないんじゃないかと感じた。

 

 キャストのパフォーマンスは、続投キャストが多い回だったおかげか安定していて、ストレスなく観ることができた。

 マーク役の村井さんは、人好きのする持ち味が生きていた気がする。初めてミュージカル版を観たけど、マークは強烈な個性の表れるシーンみたいなものが無いので、あり方が難しいんだなと。個人的にはもっと押し出し強めでも舞台が締まって見えるんじゃないかと思う。

 ロジャー役の堂珍さんは、なんというか、もし堂珍嘉邦がロジャーみたいな人間だったらマジで面倒くさいな……って思いながら見てた。CHEMISTRY以外で堂珍を見るのが初めてだったんだけど、臆病で手負いの動物みたいな姿は新鮮で単純に面白かったし、ロックを気持ちよさそうに歌ってる姿を見て、ミュージカルが好きなら今後も色んな作品に出てほしいなと思った。

 全く知らない存在だったベニー役のNALAWさんが、メインの男性陣で一番ミュージカルで生きる歌声に聴こえて素敵だった。カーテンコールでも丁寧にお辞儀して感謝する姿がすごく好印象で目に留まったのと、髪のかきあげ方に美意識を感じた(褒めてます)

 唯一、エンジェル役の丘山さんの歌が不安定なのが気になったな〜。ドラッグクイーンの格好をしていない素顔がかわいらしくて、愛される雰囲気を醸し出していたのが素敵だった。

 他のキャストもそれぞれは良いパフォーマンスをしていると思ったけど、すごく引き込まれたわけではなくて、なんか客観視しすぎな感想になりそうなので割愛。

 

 RENT自体は好きなミュージカル映画だけど、日本版はミュージカル版か映画版を見ていないとさっぱり分からない部分が大いにあるし、たとえ見ていても筋が分かるだけで中身に没頭するのは難しいつくりになっていると思う。

 翻訳ミュージカルである以上は仕方ない面はあるんだけど、じゃあそれを補って余りある熱量や質の高いパフォーマンスかというと、そこまでにも至っていないなと個人的には思う。これに関しても、少人数の構成だから大きなエネルギーを生み出すのがとても大変だという面はある。ただ、その分クリエという小さい箱なので、もっと観客を巻き込むほどのものが見たいなと思った。

 

 私にとって、チケットの値段に見合う舞台の条件は、パフォーマンスの熱量の高さと、それに観客を引き込む力。押しと引きの強さ両方。好きで好きで仕方のない演者がいれば別かもしれないけど、私はそういう存在がほとんどいないから、思い入れ補正があまり無い。

 

 本当に正直に言うと、この舞台にS席11,500円というのは、RENTという作品に大きな愛のある人や、特別に好きなキャストがいる人を除けば、個人的には高すぎると思う。もちろん脚本と曲の素晴らしさには見合っているけれど、それだけでは足りない。

 私はRENTは好きなミュージカルの一つだし、特に曲が大好きで、堂珍嘉邦CHEMISTRYとして好きだけど、それでも押しと引きの強さ両方で、かなり物足りない舞台だった。

 RENTという作品のファンダムは日本でもとても大きいだろうし、今回の公演も客席は拍手すべきところで拍手し、カーテンコールでも盛り上がり、スタンディングオベーションして、という雰囲気だったから、たぶん見る目が厳しいと同時に、味方でいてくれる客席なんじゃないかなと思う。だからこそ、この舞台や客席について行けなくて、あれっ私ってRENT好きなはずなのにな……と寂しい気持ちにもなった。

 2018年にまた来日公演があるみたいなので、そちらも1回は観たいなと思ってます。クリエでも今後も再演がありそうだし、数年後には全く違った感想になるかもしれないと思って気長に待とう。