intermezzo

死んでも忘れられない観劇をして生きたい

映画『20センチュリー・ウーマン』

公式サイトがすごく綺麗で見てるだけで楽しい。

20thcenturywomen-movie.com

20th Century Women | Official Trailer HD | A24

 

何か映画観たいなーと思ってるときにTwitterで良い評判を見かけたのを思い出し、場所と時間がちょうどよかったので渋谷シネパレスで観た。

トレーラーは字幕版よりオリジナルの方が見た印象そのままな感じだからこっちを貼っておく。

 

70年代アメリカが舞台ということ以外は全く何も予備知識のない状態で見たんだけど、すごく好きだった。

起承転結どころか、始めに何が起きて最後にこうなる、という区切りも存在せず、ただひとつ屋根の下に集っている人間たちを捉えたポートレートという感じ。

いちおう少年・ジェイミーの視点ではあるけど、タイトル通り、少年の母・ドロシア、幼馴染の年上の少女・ジュリー、家に間借りしている女性・アビー、この三人の女性たちを色んな角度から描いていて、ジェイミーがそれぞれから影響を受けたり、逆に与えたりする様がとても面白い。

 

これは作品の中身をまったく知らずに見たからとても驚いたんだけど、中盤以降にフェミニズムをかなり踏み込んで扱っている。

私はそれほど映画を見るわけじゃないから比較はできないけど、少なくとも自分が今まで見た映画でここまで明確にフェミニズムの言説を取り上げるものは見たことがない。

たとえば、家に人を呼んだ食事会でテーブルに突っ伏してるアビーにジェイミーが声をかけるんだけど、「生理だから辛いの」とジェイミーは返して、ドロシアに「辛いのは分かったから、ここで言う必要ある?」って感じにたしなめられる。アビーは「生理を生理って言って何がおかしいの?ほら、ジェイミーも生理って言ってみなさいよ」みたいなことを言い放って、食卓の全員で一緒に「生理」と声をそろえる場面なんか最高すぎた。

つまり、生理は本来なら隠すべきことでも何でもないし、女性と関わる男性にとっても当たり前に思うべきことなんだ…と私は捉えているけど、ここだけ読んで意味不明でも見たら分かると思うし、ほんとに面白かったから見てほしい。

この場面一つとっても、ドロシアはとてもオープンな考えをもった人物ながらも「生理」を全員で言うのは何なの?って反応だし、ジュリーははじめ下らないと言っていたのに終いには自分の性体験の話を始めるしで、単純なキャラクターじゃない多面的な人物像が浮き彫りになるのが良いなと思う。

 

ジェイミーは三人の女性たちと過ごすうちに、自分は女性に優しい男になりたいと考えるようになるし、実際女性に寄り添うことのできる男に成長していっているけど、未成熟さも丁寧に描かれている。その未成熟ながらもなりたい自分になろうともがく姿が、すごく眩しく見えた。

ジュリーに「あんたが好きなのはあんたの中の私でしょ」と断じられて、「ジェイミーとは近すぎてセックスしたくない」って彼女の意志を尊重するあたり、好きな女とセックスして大人になったねみたいな陳腐さがなくて良かった。

 

最後に「この頃が彼女(ドロシア)といちばん近かった」って感じのモノローグがあったのが印象的で、ジェイミーの人生でもっとも女性(それも違った個性をもった三人)と距離が近く、深く影響を受けた時期を映し出した作品のように感じた。

この作品はマイク・ミルズ監督の半自伝らしく、こんな時期を過ごした人の撮る作品ならもっと見てみたいなって気になる。

 

ことさら明るくも暗くもなく、過度にエモーショナルでもなく、心地よくて、人の描き方が抜群に良い映画。

たぶん70年代アメリカの文化を知ってるとより楽しめるけど、まったく知らなくても大丈夫。

印象的なやり取りがたくさんあったけど、見終わるとすっかり忘れちゃうからまた見たい。